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【シリーズ1-2】製造業は今こそ、量から質への転換を

更新日:3月26日

前回のコラム「マスカスタマイゼーションの実現に向けた改革をは、“ものづくりプロセスの大胆な

変革”の大きな一手として、設計開発プロセス変革の重要性を中心にお話ししました。プロダクトだけではなく企画設計にメスを入れていくという本コラムの内容にあたり、まずお伝えしたいことがあります。


人材に依存する売上体制からの脱却を


本コラムをお読みの皆様は、その重要性にお気づきかもしれません。かつて日本の製造業は労働生産性に優れ、2000年までは世界一を誇っていました。が、以降は順位を下げ、2015年にはOECD加盟国35カ国中22位という結果になっています。加えて人材不足は悪化の一途を辿り、特に後継者の不足、技術継承といった問題は深刻なものとなっています。人に依存し、人材を確保することで売上を生み出していた従来の体制では限界を迎えているのです。


これまでは、多くの従業員を抱えることで商談の数、製品の数、受注の数、売上を担保していました。多くを売ることで多くを仕入れ、原価のコストダウンを図り、利益を確保していました。


これからは量に依存せず、ノウハウやブランドといった情報資産を最大限に有効活用し、製品の質、受注の質を高めることで、受注数が減っても高い利益率を確保しなければなりません。


特に人材は、ヒト・モノ・カネの経営資源のうち獲得・育成に時間がかかるもの。ソニーやアップルといった音楽再生端末のメーカーが音楽配信サービスで複合的に売上を伸ばしていったように、付加価値を高め、販売単価を上げることで、それまでは従業員5人で出していた売上を1人で生み出す。そんな構造へと転換する時期を迎えているのです。


マスカスタマイゼーションの実現がもたらすもの


そこで提唱されているのが、「マスカスタマイゼーション」です。少品種多量生産の「マスプロダクション」ではなく、多品種多量生産の「マスカスタマイゼーション」。顧客の多様な「欲しい」の声に柔軟に応えながら、大量生産を可能にするという経営戦略です。


マスカスタマイゼーションが実現されれば、

・単体ではなく組み合わせの提供で商品価値を向上できる

・新市場・産業をまたいだ迅速な展開・普及ができる

・既存業務効率化により新開発へのリソース投下、ビジネス効率向上が狙える

といったあらゆる面での“質の向上”が図られ、さまざまなメリットが期待できます。


既存業務の効率や質を高めながら、新ビジネスの開拓にも手が伸びる。最小のコスト、人員で最大の売上を創出する事業体制を作り上げることができるでしょう。


プロダクトだけでなくプロセスにもイノベーションを


マスカスタマイゼーションで重要なのが、ユーザーの欲しいものが欲しいときにベストな形で手に入るという、UX(User experience)の観点です。UX向上にはプロダクトのイノベーションに集中するだけでなく、プロセスのイノベーションも求められます。社内のワークフローといった仕組みだけではなく、顧客とのコミュニケーションプロセス、受注プロセスといった一連の流れがいかに快適でスピーディーであるかということを考えなければいけません。


近年はICT(情報通信技術)の向上により、容易に多品種の情報をコントロールできるようになりました。企業間、拠点間のデータのやり取りも格段にスムーズになり、BtoCではWeb上での見積もりやバーチャル体験などのコンテンツを通して、自動車やパソコン、衣料品、食料品などを簡単にカスタムオーダーできるようになっています。


フロントとバックの整合がUX向上の鍵


しかしフロントエンドでオーダーされた多様な仕様に対し、従来の生産体制では対応は困難です。一部パーツのカラー変更に対して多数の人員と生産ラインを用いているようでは割に合いませんから、バックエンドでも最適化がなされ、ひとつの工場、ひとつの生産ラインで多様なオーダーを捌けるように一体化する必要があります。


ボトルネックを持たず、以前であればベテランしか受注できなかったようなスペック変更も自動で対応できる。顧客の多様なニーズに最短で対応し、製造・提供できる。このスマートなUXへの変革が、プロセスのイノベーションなのです。


設計モデルを用いてマスカスタマイゼーションの実現へ


マスカスタマイゼーション実現のためには、顧客のニーズに対して表と裏の両方が多品種に対応できるよう構造を変え、統合していく必要があります。そこで必要不可欠となるのが、より高レベルな設計モデルです。


社内中に散らばった技術文書を集約するだけではなく、各スタッフの脳内にある思考プロセスや設計構想、それを具現化する生産プロセスなど、すべての見えざる情報資産を見える化し、一本の太くて強い共通の設計プロセスを持つこと。しかしその中身はまるで人体の毛細血管のように多様な情報が張り巡らされ、いつでも誰でも、情報を取り出して活用できる状態であること。


この理想的な設計プロセスの構築は、一体どのように行うのか?そしてどのようにビジネスの現場で生きてくるのか? 次回以降は、実例を交えながら具体的な手法をお伝えしていこうと思います。







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