マスカスタマイゼーションのメリットは、個別受注生産における課題を解決しつつ、効率的な生産体制を実現できることです。
一方、デメリットとしては、生産管理の複雑化や柔軟な組織文化への変革の難しさなどが挙げられます。
以下に、メリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
目次
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マスカスタマイゼーションとは?
マスカスタマイゼーション(mass customization)とは、「大量生産(マスプロダクション)」と「顧客個別要求対応(カスタマイゼーション)」を組み合わせたビジネスモデルです。
個別受注生産における課題を解決しつつ、効率的な生産体制を実現することを目指します。
特に個別受注の製造業では、基準となる「標準製品」はあるものの、個別対応部分が膨らんで非効率になっているケースが多くあります。
この課題に対して、オプションのバリエーションを増やしたり、過去の受注設計を流用したりすることで、都度の設計作業を減らしていくアプローチがマスカスタマイゼーションです。
標準化とカスタマイズのバランスを取ることで、効率性と顧客満足度の両立を図ります。
マスカスタマイゼーションのメリット(効果)
マスカスタマイゼーションは、個別受注生産の課題解決と効率的な生産体制の実現により、以下のメリットが期待できます。
● 個別要求への柔軟な対応と納期短縮
マスカスタマイゼーションは標準製品をベースに、顧客ニーズに合った豊富なバリエーションを用意し多様な顧客要求に答えることで競争優位を実現します。
従来の個別受注生産のように都度特注品として設計することなく、顧客ごとに異なる仕様にも、柔軟に対応し、かつ大幅な納期短縮が可能です。
● 設計工数の削減と品質の安定化
マスカスタマイゼーションは過去の受注設計を再利用するため、設計資産の有効活用により設計工数を大幅に削減できます。
さらに、ベテラン設計者のノウハウを可視化し、設計ルールに落とし込むことで、品質のバラつきを抑制し、高品質な製品を安定的に供給できるようになります。
設計者の個人差に依存した都度設計から脱却し、一定の品質を保つことができる点がマスカスタマイゼーションのメリットです。
● データの蓄積と活用による継続的な改善
マスカスタマイゼーションの運用により、蓄積された受注データや設計データを分析・活用することで、「利用頻度の高いオプションや特注」、「設計改善点」の分析が可能となります。
例えば、よく選ばれるオプションを標準仕様に組み込んだり、繰り返し利用される特注をオプションに格上げすることでより、顧客ニーズにあった製品のバリエーションを提供できるようになり、競争力の強化に繋がります。
また、設計上の問題点を発見し、設計ルールを更新していくことで継続的な品質向上も期待できます。
● 顧客満足度の向上と新たな価値の提供
マスカスタマイゼーションにより、顧客一人ひとりのニーズに合わせた製品やサービスを提供できるため、顧客満足度が向上します。
カスタマイズ自体が顧客にとっての価値となるため、競合他社との差別化要因にもなり得ます。
このようにマスカスタマイゼーションを通じた顧客とのコミュニケーションにより、潜在的な顧客ニーズの発見やイノベーションにつながる可能性があります。
マスカスタマイゼーションのデメリット(課題・失敗)
マスカスタマイゼーションは多くのメリットをもたらすものの、実現するには以下のような課題があります。
● 多品種生産に対応できる設計・生産体制の構築
マスカスタマイゼーションは、同じ品種を大量に生産するのではなく、顧客ニーズに応じた多品種少量生産が求められます。
そのため、幅広いニーズに対応できる柔軟な設計や生産体制の構築が不可欠です。
具体的には、「幅広いニーズに対応できる設備や機器の導入」や「品種切り替えが容易な生産ラインの構築」、「複数のバリエーションを同時並行で生産できる体制の整備」などが必要となります。
また、「共通部材を活用したモジュール化設計の推進」も重要です。
こうした設計や生産体制の変革には、多額の投資と時間を要するため、段階的かつ計画的に進める必要があります。
● 幅広い製品バリエーションを管理する設計ルールの整備
多様な顧客ニーズに応えるには、製品設計の「標準化」と「共通化」が重要です。
部品の共通化やモジュール化を進めることで、効率的な多品種展開が可能になります。
ただし、この運用を実現するには製品設計の基本ルールを明確化し、徹底する必要があります。
特にマスカスタマイゼーションの成功には、製品設計における「標準化」と「カスタマイズ」のバランスが鍵を握ります。
標準化を過度に進めると、顧客ニーズへの対応力が低下するリスクがある一方で、カスタマイズの範囲を広げすぎると、生産性の低下や品質管理の難しさにつながる恐れがあります。
したがって、製品特性や顧客ニーズに応じて、適切なバランスを設計することが重要です。
このような設計ルールの整備には、エンジニアリング部門を中心とした運用ルールの策定や、更新を継続的に行うための体制づくりが必要となります。
● 提案型営業力の強化と支援体制の構築
マスカスタマイゼーションは、幅広い製品やサービスのラインナップの中から、顧客ニーズに最適なものを提案したり、顧客の要望そのままに特注品を受けるのではなく、価格や納期をメリットに標準やオプションに誘導する営業力が求められます。
事前に想定される様々なニーズに対して、適切な販売仕様と価格を用意しておくことも必要です。
この実現には、営業部門とエンジニアリング部門の密接な連携が欠かせません。また、提案型営業を支援するためのITツールや情報共有体制の整備も重要な課題といえます。
● デジタル化に対応できるIT人材の確保と育成
マスカスタマイゼーションの実現には、IoTやAIなどのデジタル技術の活用が欠かせません。
顧客データの収集や分析、生産工程の最適化、需要予測などを高度に行うためには、専門的なIT人材の確保が急務となります。
しかし、IT人材の獲得競争は激化しており、自社での育成も容易ではありません。
社内での計画的な人材育成に加え、外部人材の登用や協力会社との連携など、多面的なアプローチが必要とされます。
● 社内の意識改革と組織文化の変革
マスカスタマイゼーションへの移行には、社内の意識改革と組織文化の変革が不可欠です。
部門間の垣根を越えた連携やスピーディな意思決定、失敗を許容するマインドなど、組織文化そのものを見直さなければなりません。
そのため、営業・設計・生産などの関連部門が密接に連携し、顧客志向で一丸となって取り組むことが求められます。
従業員一人ひとりがマスカスタマイゼーションの意義を理解し、自分の役割を認識することが重要です。
まとめ
マスカスタマイゼーションは、BtoB製造業における個別受注生産の課題を解決し、効率的な生産体制を実現するための有力なアプローチです。
標準化とカスタマイズのバランスを取ることで、顧客ニーズへの柔軟な対応と生産性の向上を両立できます。
一方で、生産管理の複雑化や組織文化の変革など、克服すべき課題も数多くあります。
デジタル技術の活用や部門間連携の強化など、様々な取り組みを通じてこれらの課題を乗り越えていかなければなりません。
また、マスカスタマイゼーションの実現には、経営トップのリーダーシップの下、全社一丸となった取り組みが欠かせません。
経営層が長期的な視点に立ち、段階的に推進していくことが重要です。
マスカスタマイゼーションによって生産効率と顧客満足度を高いレベルで両立させることで、BtoB製造業の競争力強化と持続的な成長を実現できるでしょう。
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