製造業DXの課題とは、「レガシーシステムからの移行計画がない」、「DX推進のイニシアチブをとる人がいない」、「IT投資に対するリソースとコストのリスクがある」などが挙げられます。
本記事では、製造業のDXを阻む代表的な5つの課題とその解決策について、具体的な事例を交えて解説します。
目次
製造業におけるDXとは?
まず、DXの意味と目標、製造業におけるDXの必要性について解説します。
DXの意味と目標
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、企業の事業モデルや業務プロセス、組織文化などを抜本的に変革することを意味します。
DXの目的は、急激に変化する市場環境やお客様のニーズに迅速かつ柔軟に対応し、新たな価値を創出し続けられる企業体質へと生まれ変わることにあります。
DXの取り組みは、単なるデジタル化や業務の効率化にとどまりません。
デジタル技術を駆使して、これまでのビジネスのあり方そのものを根底から見直し、新たなビジネスモデルや収益機会を創出することが求められます。
製造業におけるDXの必要性
昨今のデジタル技術の急速な発展により、社会のデジタル化が加速する中で、製造業もDXへの早急な対応が必要になっています。
製造業は日本のGDPの20%を占める主要産業ですが、熟練者の技術や経験など「属人的要素」に依存する側面がありました。
そのうえ労働人口の減少や後進が育たないなど深刻な人材不足が課題となっています。
DXにより、これまで人力で行ってきた製造工程を自動化することで、作業時間やコストを削減し、新たな技術開発に注力できます。
また、製造現場の技術やノウハウをデジタル化して共有することで、企業の業務向上や経営改革を促せます。
近年は新型コロナウイルスや自然災害、地政学的リスクの高まりなどにより、社会や顧客ニーズは急激に変化しています。
サプライチェーンの寸断や需要の変動など、予測困難な事態に直面する中で、製造業が持続的な成長を遂げるにはDXが不可欠といえます。
製造業DXの課題と解決策
製造業がDXを進める上で、様々な課題に直面します。
ここで、製造業のDXを阻む5つの課題とその解決策を見ていきましょう。
▲ 課題① レガシーシステムからの移行が大きなハードルとなっている
多くの製造業において、基幹システムは「10年以上前に構築されたレガシーシステム」であるケースが少なくありません。
長年の業務要件の積み重ねにより、レガシーシステムは複雑化やブラックボックス化が進み、維持管理に多大なコストと工数を要するようになっています。
その一方で、レガシーシステムに蓄積された膨大な業務ノウハウやマスターデータは、競争力の源泉でもあるため、安易に捨て去ることもできません。
DXの推進はレガシーシステムから解放されることが必須ですが、「移行計画の策定」が課題になります。
現行システムとの切り分けやバックアップの方法など、移行に向けた課題が山積みです。また、現行業務を止められない中でのシステム移行は、綿密な計画と膨大な工数を要します。
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✓ 解決策① 経営指標に組み込み、指標を「見える化」し振り返る
レガシーシステムからの移行を確実に遂行するには、経営トップのリーダーシップが欠かせません。
レガシーシステムは単なるITの問題ではなく、「稼ぐ力」を高めるための経営課題として、移行計画の策定と実行を強くコミットする必要があります。
具体的には、DX推進を経営指標としてKPIに組み込み、レガシーシステムの移行状況を定期的にチェックすることが重要です。
四半期や年度ごとに達成目標を設定し、プロジェクトの進捗や成果を振り返る仕組みを整えてPDCAサイクルを廻します。
また、事業部門長や情シス部長にDX推進の役割と責任を明示し、インセンティブ制度によって移行を後押しすることも効果的です。
▲ 課題② DX推進のイニシアチブをとる人がいない
DXの成功は、経営トップのコミットメントにかかっています。
ただし、経営トップの強い意志だけでは、DXの推進は成し遂げられません。
現場の仕事に精通しつつ、DXのビジョンを描き、組織を巻き込んで変革を先導するリーダーの存在が不可欠です。
しかし、多くの製造業では、こうした「DX推進のキーパーソン」が不在のケースは少なくありません。
例えば、ビジネスに長けた人材は現場を知り尽くしている一方で、ITには疎い傾向があります。
反対に情シス部門の人材はITに精通しているものの、レガシーシステムの保守や社内ヘルプデスクなどの「守りの業務」に追われ、DX推進のキーパーソンの役割を果たせていないケースが多いです。
その結果、経営トップがDXのビジョンを掲げても、「推進者が不在で改革が進まない」「部門の壁に阻まれて調整が進まない」といった事態に陥りがちです。
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✓ 解決策② 体制と実行プロセスを見える化し、担当役割を認識させる
DX推進のリーダーシップを発揮できる人材を確保しプロジェクトを推進するには、「どのような体制」で「どのようなプロセスを踏んでDXを遂行するのか」を、組織全体で可視化して共有することが大切です。
まずはDXのロードマップを策定し、マイルストーンを明示しましょう。
その上で、各フェーズにおける「体制図」と「アクションプラン」を作成します。
トップ自らがプロジェクトオーナーとなり、DX推進室やDX人材育成の専任組織を設置するのも一案です。
経営企画、情シス、営業、生産など、各部門の精鋭を集めた専任チームを編成し、現場の仕事に即したPoC(Proof of Concept)を積み重ねながら、DXのノウハウを社内に蓄積していくことが望ましいでしょう。
事業部門と情シス部門の対話の機会を増やし、組織の融合を促すことも重要です。
▲ 課題③ IT投資に対するリソースとコストのリスクがある
DXの実現には、IoTやAI、クラウドの活用など、新たな技術トレンドを積極的に取り入れていく必要があります。そのために、ある程度の規模のIT投資が求められます。
しかし、投資対効果が見えにくい中で、思い切った投資判断に踏み切れない経営者は少なくありません。
特に、既存のレガシーシステムの維持管理コストが高止まりしているような場合、新規のIT投資に回せる原資が限られてしまいます。
また、これまでにITを「守りの戦略」と位置づけてきた企業では、投資予算の大半が「現行システムの保守費用」で占められているケースも多いでしょう。
このような企業の場合、わずかな予算でDXにチャレンジしなければならないため、小手先の施策で終わりがちです。そのため、DXプロジェクト自体が頓挫するリスクも高まります。
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✓ 解決策③ SaaSツールを活用して初期投資を抑え、「スモールスタート」進めてリスクを軽減する
DXプロジェクトを成功させるために重要なことは、経営課題を起点に「スモールスタート」で着手し、業務にあわせた運用をトライアンドエラーで進めること、そして成功体験と効果を実感しながら段階的に適用範囲を拡大していくことです。
この取り組みを実現するには、自前主義を脱して「SaaS型のクラウドサービス利用」を前提としたシステム構築が有効といえます。
自社でゼロから開発するのではなく、市場で実績のあるDXプラットフォームやアプリケーションをうまく活用することで、初期コストを大幅に抑制できます。
加えて、カスタマイズを最小限に留め、デフォルトの機能に業務プロセスを極力合わせ込んでいくことで、追加開発や改修にかかる工数を削減することも可能です。
パッケージ製品の力を最大限に活かし、既存業務をスリム化することで、IT投資のコストパフォーマンスを引き上げていくことが重要です。
▲ 課題④ DXプロジェクトの指揮・計画を外注に丸投げしている
多くの製造業では、IT人材不足に伴い「DXの計画策定」から「開発・運用」まで、丸ごと外注に頼るケースが目立ちます。
その結果、ノウハウが内部に蓄積されず、プロジェクトマネジメント力が乏しい企業が散見されます。自社の業務を知らないITベンダーに任せている場合には、業務要件との齟齬が生じ開発の手戻りによる遅れでコストの増加も発生します。
また、長年の開発委託によって、「レガシーシステム」と「ベンダーロックイン」の負のスパイラルに陥っている企業も少なくありません。
ブラックボックス化したシステムに振り回され続け、DXプロジェクトに踏み出すこと自体が困難になっているケースも多いです。
こうした状況を打破し、デジタル変革を自社の力で進めていくためには、「DXプロジェクトの内製化」が急務の経営課題といえるでしょう。
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✓ 解決策④ カスタマイズだらけで手に負えないレガシーシステムから脱却することで、社内である程度デジタル技術を操作できるようにしてノウハウを貯める
DXの内製化を進めるには、「レガシーからの脱却」が大前提となります。
ブラックボックス化して硬直化したレガシーシステムを、「クラウド型でオープンなシステム」に移行します。
外部の技術やサービスを積極的に取り入れる一方で、自社のリソースで柔軟にカスタマイズしたり、データを分析して活用したりできる環境を整備することが重要です。
この取り組みの過程では、すべてをベンダー任せにするのではなく、自社のIT人材を増強し、「デジタルスキルの内製化」を進めることが大切です。
若手や中堅社員を中心に、デジタルリテラシーの底上げに注力しながら取り組みを進めましょう。
▲ 課題⑤ DX人材の不足
DXの推進には、先端ITスキルを持つ人材が欠かせません。
しかし、多くの製造業ではIT人材が圧倒的に不足しているのが現状です。
ベテラン人材の多くは、レガシーシステムの保守に従事しており、DX推進に割けるリソースがありません。
また、IT部門は技術的負債に苦しみ、デジタル人材の育成に注力できていないケースが多いです。
少子高齢化の中で新人採用が困難になっていることに加えて、ニーズの高いIT人材の確保は特に厳しい状況にあります。
人材確保が困難な状況の中でDX推進を成功させるには、デジタル人材をいかに育成して、確保できるかが重要なポイントになります。
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✓ 解決策⑤ レガシーシステムの維持・保守業務から解放されることで、DX分野に人材をシフトさせる
まず、ベテラン人材をレガシーシステムの維持や保守業務から解放し、DXプロジェクトにシフトさせることが重要です。
レガシーシステムに蓄積された知見を活かしつつ、最新のデジタル技術を習得させ、DX推進の中核として活躍してもらいます。
また、自前主義から脱却し、外部人材の登用や異業種交流、産学連携など、オープンイノベーションの発想でデジタル人材の多様性を高めていくことが大切です。
即戦力となる専門人材を外部から招聘し、社内人材と協働させることで、DX推進の加速と人材育成の相乗効果を狙います。
DX人材の育成と確保は一朝一夕にはいきませんが、全社を挙げて計画的に取り組むことで、デジタル変革を支える人的基盤を強化していくことが大切です。
製造業DXの事例
DXの実践を通じて、製造プロセスの改革や収益モデルの転換を実現している、先進的な製造業の事例を2つ紹介します。「工場DX」と「営業DX」の、それぞれの事例は以下の通りです。
工場DXの事例
自動車部品メーカーの例
ある自動車部品メーカーでは、製造データや顧客データのフィードバックが不足し、製品開発のボトルネックになっている課題がありました。
この問題を解決すべく、工場や現場の情報を一元管理し、共有できる基盤システムを構築しました。
現有データの最大活用や課題解決へのAI活用、FA機器とのデータ連携などに段階的に取り組み、「データ活用力」を高度化したのです。
工場IoTの導入や製造現場でのボトムアップの取り組みを通じて、段階的な投資や人材育成も進めました。
この取り組みにより、部門を跨いだ情報連携が加速し、「費用対効果の向上」、「品質や商品力の向上」といった付加価値の創出につながりました。
製造データや顧客データのフィードバックのループが回ることで、製品の品質や競争力を高めることに成功したのです。
営業DXの事例
ある電気設備商材を提供する企業では、顧客それぞれが抱える課題に寄り添う「ソリューション型ビジネス」への転換を目指していました。
販売代理店や電気工事事業者、ゼネコンなど、ステークホルダーを跨いだ人たちのニーズを把握し、継続的にケアする仕組みづくりに取り組みました。
同社が選んだのが、CRMを基盤とした「営業DXの推進」です。
CRMの導入により、ビジネス上のKPI改善を支える情報基盤の確立に成功し、継続的な顧客価値創造につながるビジネス体制の整備が進みました。
さらに、1対多のコミュニケーションによる社内の相互支援も実現しています。
本事例は、営業DXが新たなチャレンジを実現するための基盤作りに寄与した好事例といえるでしょう。
製造業DXのツール
製造業のDXを推進する上で、活用が期待できるITツールは様々です。
ここで、特に顧客接点の領域に絞り、「営業やマーケティングの業務効率化」や「顧客体験の向上」に役立つツールを紹介します。
● CPQ
CPQ(Configure, Price, Quote)は、受注前の業務プロセスを自動化し、営業活動を支援するツールです。
顧客の要求をインプットすると、製品の構成や仕様、価格が即座に算出されます。
見積書や契約書などが自動生成できるため、営業のスピードと確度を高められます。
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【関連ソリューション】
● SFA
SFA(Sales Force Automation)は、営業活動で収集した顧客情報を一元管理し、日々の活動をサポートするツールです。
訪問記録や商談履歴などの「営業の見える化」を通じて、機会損失の防止や生産性の向上、ノウハウの共有などに役立ちます。
● CRM
CRM(Customer Relationship Management)は、営業だけでなく、マーケティングや顧客サポートまでも含めた、顧客との関係性を統合的に管理するシステムです。
顧客接点のあらゆるデータを集約して分析することで、カスタマーエクスペリエンスの最適化を通じて、顧客との絆を深めることに貢献します。
● MAツール
MAツール(Marketing Automation)は、Webサイトなどの顧客接点での行動履歴を分析し、見込み客の関心度や課題に合わせた最適なコンテンツを自動配信するものです。
営業への引き継ぎをタイムリーに行うことで、効果的なリード・ナーチャリングが可能となります。
まとめ
製造業がDXを成功させるには、レガシーシステムからの脱却、DX推進リーダーの育成、IT投資の最適化、内製化の推進、人材育成が重要です。
現場主導で小さく始め、トライアル&エラーを繰り返す地道な努力が欠かせません。
トップダウンとボトムアップの連携を取りながら、全社一丸でデジタル化に取り組む必要があります。
企業変革を目指すDXの取り組みは、一朝一夕にはいきません。
長期的視点に立ち、スピード感を持ちつつ、柔軟に変化に適応する組織力が問われます。
工場DXや営業DXの事例からも、「データ活用」や「顧客価値創造の取り組み」が成功のカギを握ることがわかります。
現場の知恵をデジタルの力で引き出し、CPQやSFA、CRM、MAツールなどを活用しながら、バリューチェーン全体で共有して活用することが求められます。
DXの真の目的は効率化ではなく、「競争優位性の確立」です。競争優位性の確立を目指し、製造業のDXを推進していきましょう。
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